「L1m-net」の強みを引き出して
見守りシステムの価値を上げる提案を

「L1m-net(エルワンネット)」の見守りシステムを必要としているのは、どんな人たちなのか。完成品を見て、被災地支援や障がい者のサポートに使えるのではないかというひらめきとともに、「L1m-net」の導入アドバイザーとして、具体的な利活用を提案するHUGKUMI。防災分野や被災地支援など地域福祉のスペシャリストであるHUGKUMI代表 長井一浩さんと、障がい者支援に従事してきた小島寛さんが考える「L1m-net」の可能性と今後の展望をお伺いしました。

緊急通報システムとの違い
日常の中でつながる必要性

 防災分野や被災地支援など地域福祉の活動に主軸を置いていた長井さん。「L1m-net」の導入を勧める中で、「緊急通報システム機能は入らないの?」という質問を受けることがとても多いそうです。

「いざというときに使う緊急通報装置やシステムは理解されやすいけれど、『L1m-net』のように日常生活の中でコミュニケーションを取る目的で使うICTツールは、理解されるまでのハードルが高いと感じます。ただ、実際に使ってみると『良かった』という声が多い。利用者にもたっぷり時間をかけて使っていただけるよう配慮することで、有用性が実感できると思います」

「L1m-net」は、利用者のもとに「L1mボタン」(端末機器)を設置。利用者が自分の状況を伝えるカードを置いてボタンを押すと、管理者(支援者)に意思が伝わる仕組みです。利用者が「相談カード」を使ったときは、管理者(支援者)から利用者に電話を入れて状況を確認するという流れにする。このようにつながりを保ちながら、お互いの負担を軽減できるのがICTツールの特徴です。

「ICTは、『L1m-net』のように相互コミュニケーションを取りやすくするために使うので、見守りが必要な現場にどんどん浸透していってほしいです。支援する側にとっても、作業効率を上げ、負担は減らしながらつながりを強化できることを私たちも周知しています」

横断的に動きながら連携
疲弊する現場改善に着手

 三重県内の社会福祉協議会(以下、社協)に在籍していた長井さんが独立し、富山県黒部市で仲間とともにNPO法人を立ち上げて活動を始めたのは2013年。社協時代からIT化やデータの利活用を見据えて動いていたけれど「なかなか受け入れてもらえなかった。ただ、絶対にいつか必要になると思って、ずっとやり続けてきた」と信念を貫いてきた。

「社協は、それぞれの市町村内での活動になるので、自分の管轄外のところは手が届かない。だから、一度外に出て変えていきたいと思ったんです。NPO法人を運営する立場になり、気づいたこともたくさんあります。HUGKUMIを立ち上げたのも、支援者側の支援をしたいという思いから。アナログでずっとやり方を変えない、業務改革を行わない現場は疲弊してしまうんですよね。効率的にすることで、自分たちの働き方も楽になるし、記録が残れば、評価もしてもらえる。評価はやはり大事なので、僕は、支援者側の支援と組織の評価の2極で、大変な現場を変えたいと思っているんです。また、業務の効率化によって、寄り添った支援をするために必要な時間を生み出すことができる。つまり、支援のための効率化にもつながっています」

 福祉や地域について、組織の中では細かく縦割りになり、柔軟に動けない側面もあります。そこを横断的に動きながら、時には民間企業とも連携して問題解決に導いていく橋渡し役を担うHUGKUMI。特に、災害が起きた被災地で支援活動をする職員たちの負担は、計り知れないほど大きいものです。災害ボランティアセンターはアナログで運営されているところが多く、長井さんは運営アプリを開発・提供し、現場にICTを紹介する活動を積極的に行っています。

「導入後に現場の運営が円滑になったという結果報告とともに、『ICTツールを使うとこんなに劇的に変わるのか』という声もいただきます。ICTの利活用で、災害ボランティアセンターだけでなく、もっと広い範囲で豊かな支援活動ができるようにサポートしていきたいですね」

ギリギリの状況下だからこそ
「L1m-net」で安心できる

 現在は、企業の防災デジタルアドバイザーやアンバサダーなども行うHUGKUMIですが、長井さんは「L1m-net」を勧めるの1つに、シンプルな操作で使いやすい点をあげます。デジタル機器が苦手、スマートフォンは難しいという人にも受け入れてもらえるやさしいICTツールの普及は、支える側、支えられる側のどちらも助かります。

「被災地では、『支え合いセンター』といって、主に仮設住宅で暮らしている人たちのコミュニティを作って見守りをする人たちがいますが、地域の人たちは全員被災者で、支援が必要な方です。また、被災後に市外や県外など離れたところに避難している人たちもいるので、見守りにいきたくても物理的に難しい。住民も職員も全員が被災者というギリギリの状況下で、どんなに必死にやっても、孤独死や孤立死も出てしまうんです。ですから支援者と利用者が、お互いに安心できる仕組みがほしい。『L1m-net』は、ぴったりなんじゃないかと思ったんです」

 長井さんは、2020年8月に発生した熊本県の豪雨災害の支援活動に現地入りした際、球磨村で「L1m-net」を導入。被災地の中でも最も被害が激しく、高齢者が多かった球磨村は、支え合いセンターの職員数も限りがあったので、「L1m-net」は好意的に受け取られたようです。

「球磨村で、『L1m-net』を使った被災者の見守りが始まり、状況が落ち着いた後も引き続き使えるように、使用方法などもイメージしながら職員の皆さんと一緒に取り組みました。支援者や利用者だけじゃなく、その家族からも『これがあるから安心できる』という声をいただきましたし、導入後の評価は高いです。ただ、ICTツールは、『わからない』とか『必要ない』と拒まれることもあるので、時間をかけて説明して使ってもらった結果、よかったと思ったらその経験を伝え広めてもらえたらいいなと思っています」

ICT利活用で効率化を図り
業務の質も上げていく

 2020年からHUGKUMI に合流し、長井さんとともに活動する小島さんは、大学講師も担いながら主に障がい者支援につながる取り組みを行っています。現場を支える支援者からの相談も多く、その理由に「社協をはじめ、地域の相談は総合化・複雑化し負担感も大きくなっている」と小島さん。

「今、社協などの相談支援機関が求められているのは、いろんな困りごとを抱えている人がいるから、まずはどんな相談でも受け止めましょう、という方向なんですよね。そうすると、相談支援の質の向上や地域の体制整備など、業務が複雑多岐にわたります。組織内で取り組むべきことはどんどん増えていく、でも人手は不足している。目の前のことに追われてしまう……。そうなると外部からサポートしていく協力者も必要だと思うんですよ」

 仕事量が増え、煩雑化することで、目の前の業務だけでなく人材育成も滞り、職場の人間関係にも支障が生じるようになってしまう。HUGKUMIの研修や相談から、ICTの導入を前向きに検討しているところもあるそうです。

「仕事が嫌で辞めたいのではなくて、仕事は好きだけど、頑張りすぎて擦り切れてしまう方も少なくありません。『やりたいのにもうできない』という人たちを見るのはもう耐えられないなと思って、HUGKUMIでは“支援者支援”も業務の根幹に据えています。業務の効率化も大事なことで、何かしらのツールを使って現場の負担を減らしながら質を上げられるといいなと思い、『L1m-net』にも着目しました」

障がい者や引きこもりなど
社会生活が困難な人の助けに

 また、小島さんは「L1m-net」について、障がいのある人や引きこもりなど社会生活が困難な人たちにも有用なのではと考え、Ponteとやまで実証を行うきっかけを作りました。現場に足を運び、Ponteとやまの皆さんの声を聞いた小島さんは、「想像以上の使い方をしていて本当にうれしかった」と話します。

「利用者の皆さんがお話しされていましたが、『L1m-net』は機械の声なので、説教臭くもないし、上から目線でもない。過干渉でも何かを強制されるわけでもないけど、ゆるやかな見守りができていて、それがお互いに良い影響を与え合っている感じ。見守りというよりも、もっとゆるい、ちょっと気にかけ合うくらいの関係性ができていて、とてもよかった」

 制度やサービスの調整・利用支援の割合が業務の多くを占めてしまうと、支援者対利用者という構図で固定してしまい、地域でお互いが支え合うという視点での取り組みに十分な時間を確保できない、と小島さん。「L1m-net」は、まさにそこを補うためのツールであり、利用者自身も支援を受けるだけではなく、自らも役割をもって行動するきっかけとして活きた使い方をしてもらえるものということがわかります。

居住支援やヤングケアラーなど
広げたい「L1m-net」の見守り

 被災地支援の一助としてだけでなく、日常生活の支えにもなるやさしいICTの「L1m-net」見守りシステム。必要な人のもとに届けて活用してもらうには、どのような方法と手段が適しているのか。さまざまな現場を知るHUGKUMIのお二人の見解を伺うと、長井さんは「頭の中にはいろいろありますが、今は、ひとつずつ事例を作って、積み上げていくしかない」と前置きした上で、こう話します。

「福祉業界でも今、高齢者や低所得者向けの支援事業などもあり、居住支援はますます増えていくと思います。要配慮の人は特に、日々の暮らしの中でコミュニケーションが必要です。状態を把握するのに『L1m-net』のようなツールは有効活用できるんじゃないでしょうか」

 小島さんは、「子どもの見守りに活用してもらいたい」と、事情があって登校できない子どもたちやヤングケアラーたちの見守りとして「L1m-net」の導入を提案します。

「登校できないといっても、その裏にはさまざまな事情があるので、ただ『学校に来て』と声かけされることも子どもにとってはしんどいかもしれませんよね。子ども自身に負担をかけずに意思を発信できるカードがあるだけで、見守ってくれる大人がいるということは伝わります。登校を促すことを目的にするのではなく、緩やかな関係作りをするきっかけとして、子どもたちが使えれば支援の選択肢を増やすことができるんじゃないかな」

 見守りシステムが必要な人のところに行き渡れば、これまで声を上げられなかった人もアクションを起こせるようになるかもしれません。多様性のあるつながりをもっと広げ、ごちゃまぜに関わり合いながら育んでいきたい、という長井さん。

「福祉を重点的にやってはいますが、そこばかり集中せず、いろいろなことに興味や関心を持ちながら人とつながって新たな取り組みをしていく。『L1m-net』だけではなく、他のツールも活用しながらつながりを育み、見守りシステム自体の価値を底上げしていきたいですね」

「L1m-net」の強みを引き出す提案を携え、よりよい未来に向けて。HUGKUMIの挑戦は続きます。

【取材先】
合同会社HUGKUMI
代表社員 長井 一浩(ながい かずひろ)さん
業務執行社員 小島 寛(こじま ひろし)さん

社会福祉協議会(社協)出身の社員で構成され、実務経験を通じてそれぞれの得意分野を生かして活動を展開。社会福祉法人、医療法人、民間事業所等へのICT導入支援等のほか、人材育成、研究事業、コンサルティング業務などを行っている。災害ボランティアセンターの運営アプリ開発をはじめ、サイボウズの災害支援パートナー、LINE WORKSアンバサダーとしても活躍中。

合同会社 HUGKUMI
https://hugkumi-llc.com

 

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