「L1m-net」で見えた新しい防災のかたち
見守りで“身を守る”習慣づくりの推進を

 2023年4月に「L1m-net(エルワンネット)」導入の「交流型高齢者見守りサービス『紡(つむぐ)』」をリリースしたタイホ防災株式会社(以下、タイホ防災)。
 同年に創業60周年を迎えるなか、時代にフィットした新しい防災活動を提案する代表取締役の山下泰助さんにお話をお伺いしました。

消防中心の防災から裾野を広げ
より多角的に防災事業を展開

 大阪市住吉区を拠点に、近畿圏の企業や店舗、住宅から文化財の寺社までさまざまな建物の消防設備工事やメンテナンスを手がけるタイホ防災株式会社。消防設備士など国家資格や専門知識を有する社員も多く、半世紀以上に渡り消防中心の防災に従事していましたが、近年は太陽光パネルと蓄ガスで電力供給する新しいエネルギーシステム「OFFGRID(オフグリッド)」の実践など、より多角的な防災事業に取り組んでいます。

 「主な業務は火災報知器やスプリンクラーの設置など消防設備関係ですが、もっと広い範囲で防災をとらえたいと、無線式電源制御装置の開発・販売をはじめ、ソーラーパネルや蓄ガスでエネルギーの自給自足に取り組むなど、防災の裾野を広げてきました近年は、他社と協業して空き家活用事業を始めましたが、実はそのご縁が、今回の『見守りサービス』につながったんです」

「見守りこそ最大の防災」
L1m-netに可能性を見出す

 火事から建物や人を守るツールと、高齢者を見守るサービス。一見、全然違う畑にあるように見える2つだけれど、山下さんは「見守りこそ最大の防災」と胸を張ります。現在、淡路島にも事務所を構えて事業をする中で、地域やコミュニティの役割などを考えるきっかけがいくつもあったそう。そんなご縁つながりの先で、まるで導かれるかのように出会ったのが「L1m-net」でした。
 
 「これはいい、と感じました。シンプルだし、電源プラグを挿すだけで、すぐに使えるから、機械が苦手な人にもすすめやすくて。タブレットよりも使いやすいですよね。『L1m-net』と出会わなければ、このタイミングで福祉事業に参入することはなかったかもしれません」

ちょっとお節介を焼く感覚で
ゆるいつながりをうながして

 「L1m-net」は、利用者のもとに「L1m-netボタン」(端末機器)を設置した後、利用者が自分の状況を伝えるカードを置いてボタンを押すと、管理者(支援者)に意思が伝わるという仕組み。利用者と管理者が日常的に“ゆるく”つながる習慣をうながすことで、利用者は声を上げやすくなり、管理者は異変を察しやすくなります。

 「L1m-net」に可能性を感じた山下さんは、自社の防災サービスとの連携も視野に入れながら、まずは、2023年4月に「交流型高齢者見守りサービス『紡』(つむぐ)」を発売。タイホ防災が管理者(支援者)となり、提供する新サービス「紡(つむぐ)」は、「L1m-net」で自分の元気を知らせる「元気だよカード」と困りごとを相談する「相談カード」の2枚を用意。「相談カード」が置かれたら、利用者に電話をして状況を確認する流れを作りました。

 山下さんは、「交流型高齢者見守りサービス『紡(つむぐ)』」と名づけた理由を「離れて暮らす高齢の親を気にかける子どもや孫たちが『L1m-net』を通じて、ちょっとお節介を焼くようなイメージで気軽に使ってもらいたいから」と話します。実は、「L1m-net」の導入の際に、ご両親に使ってもらおうとしたら最初は「なにこれ、いらん」と拒まれたそう。

 「親の反応は当然かなと思うんです。おそらく、見守られる側の高齢者が自分からこれを使いたいとは言わないでしょう。むしろ、離れて暮らす親御さんを心配し、気にかけるお子さん側の要請で渋々受け入れるようなケースが現実的じゃないでしょうか。でも、最初は気乗りしなくても、音声メッセージが流れると楽しいし、うれしいですよね。『いらん』と言った私の親も設置後は一転、音声メッセージにツッコミを入れたり、『元気です』カードを1日に何度も置いたり、なんや楽しそうですよ」

見守りはお互いに負担が少ない
システムじゃないとむずかしい

 実際に「L1m-net」を使った実証実験の中では、定期メッセージに遊び心を加える試みも行ったという山下さん。
 
 「先日、母が旅行先から戻ったので『旅行はどうでしたか? 次は桜を見に行きませんか?』というメッセージを送ったり、『そろそろコーヒータイムです』に続けて『コーヒーの原産国で生産が1位の国を知っていますか?』などプチ情報も流してみました。一方的なメッセージでも、相手が思わず返事したくなるような呼びかけで “交流”できたらいいなと、工夫しています」

 メッセージを流す時間も内容もあらかじめ決めてセットしておくことができますが、そこにちょっとした心遣いと遊び心をプラスすることで、利用者がホッとゆるんだり、和んだりできる。心地よく関係性を“紡ぐ”タイホ防災の見守りサービスは、「見守られる側も、見守る側も、お互いが負担のないシステムだからこそ成立するもの」と山下さんは考えます。

 「離れて暮らしていると、気にかかるけれども、それぞれの生活もあります。頻繁に連絡を取ったり、会いに行くことができなかったりして、様子がわからない。親もいちいち『大丈夫?』などと聞かれたくないかもしれません。だけど、そうしていると、いざというときに困りますよね」

非日常を日常に組み込むことで
無理なく防災意識を高めていく

 そうはいえども、非常時に対する警戒心や意識の高さを普段から持ち続けるということは、常に気を抜けない緊張感を持ちなさいと言われるようなもの。それは疲れてしまうし、現実的ではないからこそ、タイホ防災では、“非日常を日常化する”スタンスで多角的に防災を生活に組み込む提案をしています。例えば、自社の電気は、太陽光パネル、電力会社からの供給と、LPガスを併用、一度蓄電しながら使い続けることで電力を循環させる“非常時”体制で回し、モバイルバッテリーも積極的に活用するなど、平時から非常用のツールを使うことで、いざというときの対策ができる。そうして日常的に「安心」を積み上げていく意識で取り組んでいます。
 「『見守りサービス』も同じで、日常的に声をかけ合える関係性を作ることで状況が把握しやすくなるので、お互い安心の積み上げができる。見守ることで、いざというときすぐに助けられるので、私は、『見守りこそお客様の笑顔を守る最大の防災になる』と思っているんです」

 「あなたの『困った』を笑顔に変えたい」というタイホ防災の理念からも、山下さんが「笑顔」と「感謝」をとても大事に考える気持ちが伝わります。

 「消防設備は、火災が起きたら正しく稼働しなければ命にかかわるものです。だけど、火事がなければ使われないので、一生使わずに終わるかもしれないものでもあります。だからこそ、お客様からの『ありがとう』は格別なんです。火災報知器が鳴ったことで『助かった、ありがとう』と声をかけられることもありますが、私たちも『ありがとう』という気持ちをもって仕事をさせていただいています。常日頃から社員にも『ありがとう』と『笑顔』は忘れたらあかん、と言い聞かせていますよ」
 消防設備の設置など、客先に上がって作業をすることが多い職業だからこそ、気づくこともたくさんあります。口にはしないけど「困っている」、今は大丈夫だけれどこの先困ることがあるかもしれない。山下さんは、「地域の人同士で見守り合う仕組みづくりが最大の目的。地元の人が助け合うことに意味がある」と言います。

 「新事業の『紡(つむぐ)』で見守りネットワークが広がって、各地で“地域見守り隊” がどんどん出てきたらいいなと思っています。企業だけじゃなく、学生さんなども含め、いろいろな人が『L1m-net』を活用して、町全体が活性化したらうれしい。将来は、防災事業と見守りサービスを連携させて地域住民にとって、これが“日常”になることを願っています」
 
 「L1m-net」でゆるやかに連携する日常が、地域の発展にもつながっていく社会へ。タイホ防災は新たなサービスを携え、また一つ、道を開いていきます。


【取材先】
タイホ防災株式会社
代表取締役社長 山下泰助(やました たいすけ)さん

1963年創業以来、60年に渡り、消防設備工事やメンテナンス業務を行う。
国家資格を有する消防設備士などの有資格者を筆頭に、総合防災企業として近畿圏を中心に事業展開。2021年に無停電システム「OFF GRID」を採用した新社屋を完成させ、新エネルギー防災事業及びS-ソリューション事業部を新設、現社名に変更。2023年からは福祉事業にも参入し、地域づくりと防災をつなげるサービスを提供している。
タイホ防災株式会社

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